市川先生,ありがとうございます。
まずは1冊目から,書評と併せて順にご紹介します。
My Recommendations No.87
『天才の栄光と挫折 : 数学者列伝』
(藤原正彦 / 新潮社)
著者の藤原正彦は「国家の品格」、「若き数学者のアメリカ」などのベストセラーを出した作家でもあり、元々はお茶の水女子大学教授の数学者である。藤原正彦は、徳島にも縁があり、作家である父新田次郎の絶筆になった未完の小説『孤愁 サウダーデ』はモラエスを描いたものであった。彼は、父の遺作を完成させるために徳島に訪れ、取材をし、そして完成している。
その彼が、数学の分野の9人の天才、ニュートン、関孝和、ガロワ、ハミルトン、コワレフスカヤ、ラマヌジャン、チューリング、ワイル、ワイルズについて書いた短い伝記本である。数学フェチの私にとってなじみのある天才たちだが、多くの人にはこの本で初めて知る人も多いかもしれない。ただ著者自身が数学者であること、著者自身が現地に足を運び、天才たちの生き方を調べているため、生物系とはひと味違った数学の天才たちを非常に身近に感じることができる本である。
個人的には、エヴァリスト・ガロワとアンドリュー・ワイルズの名前は是非とも覚えていただきたい。エヴァリスト・ガロワはその決闘前夜に書き残した群論に関する論文が死後数十年経ってやっとその価値が理解された20歳で死んだ悲劇の数学者である。私が若いときに、2次方程式の解は、3次方程式の解はと、興味本位で調べていたときに出会った数学者である。
アンドリュー・ワイルズは、350年に渡る難問フェルマーの最終予想を劇的に解決した人である。この解決には日本人数学者が深く関わっているおり、この本の20ページ足らずの文章でも非常に感動的な内容となっている。興味を持った方はこのフェルマーの最終予想の解決に至ることを歴史的にかつ非常に感動的に描かれたサイモン・シンの『フェルマーの最終定理』という本を是非とも読んでいただきたいと思っている。全く関係ないと思われる2つの現象は,実はある共通の論理で動いていることを見いだすところの文章のくだりは、生物学を志す人にとっても必読である。
書評中にある,サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』は本館2階東閲覧室に所蔵しています。11月には蔵本文芸コーナーに並ぶ予定ですので,こちらもぜひご利用くださいね。
それまで待ちきれない!という方はカウンターにお問い合わせください。2、3日で分館に取寄せることができますよ。
では次に,2冊目をご紹介します。
My Recommendations No.88
『100年の難問はなぜ解けたのか : 天才数学者の光と影』
(春日真人 / 日本放送出版協会)
宇宙は有限か無限かにも関係する数学の難問「ポアンカレ予想」がロシア人数学者ペレリマンによって2006年に解かれた。100年もの間、幾多の数学者が挑み、挫折、人生を狂わせた難問でもあるという。そして解決したペレリマンは「数学界のノーベル賞」と言われるフィールズ賞を拒否。少しでもインパクトファクターの高いジャーナルにと神経をすり減らしている我々の世界からはほとんど考えられないような行動。しかも、その解き方が、全く別の分野の論理を使って説かれたというのも興味深い。
物事のブレイクスルーは予期せぬところにある。非常にドラマチックな展開を遂げたこの難問をとりあげたNHKスペシャルの番組を元に書かれた本である。
こちらも世紀の難問に挑んだ天才数学者のお話です。ドキュメンタリー番組を元にして書かれていて,まるでドラマを見ているような感覚で読めそうです。手に取ってご覧くださいね。
そして3冊目はこちら。
My Recommendations No.89
『縮む世界でどう生き延びるか?』
(長谷川英祐 / メディアファクトリー)
アリは働き者といわれながら、その7割は働かない、1割は一生働かないという衝撃的な本「働かないアリに意義がある」で有名になった進化生物学者の長谷川英祐先生の2弾である。
超高齢時代、人口減少、大学予算の削減と縮小の話ばかりで、教職員はその対策に追われている毎日である。生物の世界の観察から「個体の利益を犠牲にする組織は原理的に存続不可能」、縮む世界では「小規模」「小さな利益を大切に」,「利益は個の耐久性に使うが大事」など、なぜか胸のすくような指摘の連続。人の行動もやはり生物だということを改めて感じる本である。
長谷川英祐著『働かないアリに意義がある』,こちらも気になりますよね。この本も本館で所蔵しています。11月の蔵本文芸コーナーに取寄せ予定ですので,併せて読んでみてはいかがでしょうか。
3冊とも本日より蔵本分館1階ホール,My Recommendationsコーナーに展示しています。
皆さんのご利用,お待ちしています!
sm