誉田先生,ありがとうございました。
さっそく書評をご紹介します。
2008年のノーベル賞受賞において、山中先生は、iPS細胞の開発で医学生理学賞を、益川先生は6つのクオークの存在の理論で物理学賞を受賞した。現在の年齢は、益川先生が74歳、山中先生が52歳で、22歳の差は親子といっても良い年齢差である。この2人が司会者などを一切交えないで、長時間にわたりいろいろなテーマに関して自由に対話していることは、異色で大変興味深いと思われる。2人に共通していることは、研究がとても好きであり、若い頃は数学、物理学が得意で、国語が好きでなかったことである。しかし研究者になると国語は非常に重要な科目であることが認識され、できなければ自分の研究成果を正しく表現できずに他人から理解してもらえないことになると警告している。このような偉大な研究者になるには、特定の分野に関する秀でた才能はもちろんのこと、種々な分野にまで精通する必要があるということである。若い研究者たちは、あらゆることを学び得意になるべきであると考えられる。
また2人は普通の研究者からみると、天才でかつ運が良いと思われている。益川先生の話によると、天才には2種類あり、日本人で天才と言われている大部分の人は秀才の延長の天才であるらしい。そしてそれらの研究者はみなわかりやすく、平凡であると断言している。天才であると思える物理学者で日本人をしいてあげれば、南部陽一郎先生(アメリカ国籍で、自発的対称性の破れに関して、ノーベル物理学賞を2008年に受賞)だけであると述べている。実際、研究に関して、生命科学の分野では、お金と人の数がものをいうことを山中先生は強調しているが、分野により異なるらしい。益川先生の言では、素粒子学の分野において、実験系では生命科学と同様にお金と人の数が最も重要であるが、理論系では頭脳であり、2,3人の頭脳集団でディスカッションすることが最も重要であると述べている。
私が考えるに、益川先生は真の天才であることがうかがえる。さらに対照的であることは、山中先生はこれまでに挫折を2回経験したと話している。最初の挫折は、医者になったばかりの頃のことである。整形外科医をめざしたが、大学病院では治すことができない患者さんがほとんどで、何のために医者になったのかと思うようになり、臨床医としては手術がヘタなうえ、さらに手術もできない状態となったことから、逃げるように臨床から基礎研究へと移った時のことである。2回目は、アメリカから帰国し、やっとのことで基礎研究者としてポストを運良く獲得でき研究を続けていったが、研究環境があまりに違うことで、思うように研究が進まず、何のための研究であるか悩み、再び臨床医へ戻ろうかと考えた時である。そして、精神的にうつになったとも告白している。一方、益川先生は挫折の経験はないと言っている。やはり、真の天才は、秀才とは違う人間であると思われる。
これらの話題の他に、宗教に対する考え方、一番の必要性など、まだいくつかのテーマに関して、2人が対話している。今を代表する2人の偉大な研究者はどのように物事を考えてきて、現在何を思っているかということがよくわかり、研究に対する姿勢をあらためて考えさせられる本である。
今日から1階ロビーに展示しています。
興味のある方はぜひお立ち寄りください。
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