依岡先生,ありがとうございました。
『どくとるマンボウ青春記』
(北杜夫著 / 新潮社)
お寄せいただいた書評をご紹介します。
北杜夫は私の青春でした。『船乗りクプクプの冒険』では大いに笑い、『夜と霧の隅で』ではナチスの精神障害者絶滅計画に底知れぬ恐ろしさを味わった。そしてトーマス・マンという作家の存在を教え、ドイツ文学へ手引きしてくれました。
この本は北杜夫の旧制高校から大学までの青春時代の回想記ですが、彼のトーマス・マンへの心酔ぶりにはあらためて驚かされます。『楡家の人びと』がマンの『ブッデンブローク家の人々』を下敷きにしたことは、すでによく知られています。さらに、『どくとるマンボウ航海記』は医者でもあった自身の船医としての渡航体験を書いたものですが、そこにもマンの生地リューベック訪問談がありますし、小説『木精』でも主人公にこの町へ文学巡礼させているのです。
この本でもマンとの「出会い」を語り、「漠とした憧憬。これこそ物事の始まりではないか」と述べています。青春とはこうした人生の指針となる人や本との出会いの時なのかもしれません。青春時代におけるあこがれや出会いがいかに大きな意味を持つか、私も今さらながら実感しています。青春まっただ中にいる学生の皆さんに一読をすすめたい本です。
一冊の本との出会いから思いがけない旅路をたどる,そんな貴重な経験を大切にしたいですね。
本日より蔵本分館1階ホール,My Recommendationsコーナーに展示しています。
ぜひ手に取ってご覧ください!
sm