2014年4月23日水曜日

My Recommendations No.6,7 「白き旅立ち」「眉山」

大学院HBS研究部口腔顎顔面形態学分野教授 北村清一郎先生が、
推薦図書「白き旅立ち」(渡辺淳一著 新潮文庫)の書評を書いてくださりましたのでご紹介します。
北村先生、ご協力ありがとうございました。

 徳島大学を含め、全国の医・歯系大学での解剖実習に供せられるご遺体は、今日ではほとんどすべてが篤志解剖体である。篤志解剖体とは、自らの体を「学生の教材」として無償で提供することを生前に決意し、ご遺族の同意の下に大学に献体されたご遺体のことで、献体は,本人の尊い善意とご遺族の深いご理解によって成り立つ究極の奉仕活動といえる。われわれは、医学・歯学の教育がこのような善意の方の“まごころ”で支えられていることを忘れてはならない。
 しかしながら、人体解剖は当初から篤志解剖体で成り立っていたわけではない。昭和58年に「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」が超党派で制定されるなど、活発な献体啓蒙活動が行われた結果である。それまでは、実習用遺体といえば、行き倒れの方や養老院などの施設で亡くなられた方で、ひきとり手がどうしても見つからない場合のご遺体が主流であった。彼ら全員が死後に解剖されることを望んでいたわけではない。
 日本での篤志解剖体の第一号は“美畿”という女性である。没年は34歳で、明治2年医学校兼病院(東京大学医学部の前身)の解剖所で解剖に付されている。当時の宗教観や死生観、身体観からすれば、死後に自分の体が傷つけられるということは、現代以上に到底耐えられるものでなく、江戸時代での人体解剖が刑死体に限られていたことからすれば、画期的なことであった。本書はその美畿の一生を描いた小説である。美畿の生い立ちと不幸な生涯、献体を決意するに至る経緯と心の葛藤が事細かく描かれている。献体を決意するまでの心の葛藤は基本的には現代にも通じるもので、献体者の思いを知るうえでも不可欠の書である。
 献体をモチーフとした小説に「眉山」(著者:さだ まさし)がある。徳島を舞台とし、映画化にあたって本学でもロケが行われた。「白き旅立ち」とはおもむきが異なるが、こちらも読まれることをお勧めする。


本書および書評中に登場する「眉山」(さだまさし著 幻冬舎文庫)を1階ロビーに今日から展示していますので、ぜひ読んでみてください。