2014年6月20日金曜日

My Recommendations No.12 「献身 遺伝病FAP(家族性アミロイドポリニューロパシー)患者と志多田正子たちのたたかい」

HBS分子薬理学分野教授 兼 徳島大学附属図書館副館長の吉本勝彦先生が、今年2月に発行された「献身 遺伝病FAP(家族性アミロイドポリニューロパシー)患者と志多田正子たちのたたかい」(大久保真紀 / 高文研)を推薦してくださりました。
吉本先生、ありがとうございました。




それでは、先生に書いていただいた書評をご紹介します。



 家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は、30番目のアミノ酸バリンがメチオニンに変異したトランスサイレチン(以前はプレアルブミンと呼ばれていた)が末梢神経や自律神経系など沈着し臓器障害を引き起こす常染色体優性遺伝の疾患(1/2の子どもに遺伝し発症する)である。自律神経症状や高度な下痢・便秘、起立性低血圧による失神や心伝導系障害による突然死などを来たして40歳代で死亡する。
  FAPは熊本県および長野県の一部の地域において奇病や風土病として恐れられ、患者・家族は激しい差別を受けていた。患者を座敷牢に閉じ込めるなど、家族は患者を隠し続けざるを得ない状況が戦後まであった。
  本書の主人公志多田正子は、兄や姉がFAPを発症・死亡したことを機に、本疾患に対峙することになる。次は自分が発症するのではないかとの不安と戦いながら、病院での患者の世話から始め、自宅で療養している患者にも手を差し伸べた。そして、患者会を設立するようになる。もちろん差別を恐れて名簿なしのスタートである。原因の解明に役立てようと患者の血液採取や病理解剖にも大きな貢献をした。志多田さんを支え続けたのは、差別や偏見に満ちた世間に対する怒りであり、上から目線で患者をみる医者への怒りであった。
  現在では、治療法の1つとして生体肝移植がある。死から逃れるが、体調が回復するわけではない。当初の海外での移植における患者間の確執や国内の移植では誰がドナーになるのかという家族間の問題点もでてきた。移植を受けて命の危険性から回避できても、自分の代では終わらない。そこに遺伝病の問題がある。FAPの臨床像を知るには「家族性アミロイドポリニューロパチーの診療ガイドライン」が参考になる。ウェブから入手可能なので参考にして頂きたい(http://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdf/neuropathy.pdf)。 
  「医療関係者は病気になると患者の気持ちが良くわかるようになる」と言われる。本書では、患者・家族の病気や将来に対する不安、子どもに病気のことを打ち明けられない親の気持ち、婚約者への病気の可能性についての告白、逆に婚約者が変異遺伝者である時の態度、子どもに病気が遺伝するかもしれないという妊娠・出産の問題、発症前遺伝子検査への対応などが文集や日記の形で綴られており、自分が患者や家族の立場なら、どう生きていくのか、死とどう向き合うべきか考えさせられる良書である。

さっそく本書を入荷し、今日から1階ロビー中央で展示しています。
ぜひご一読ください。

また、吉本先生には以前「四大公害病」も ご推薦いただきました。こちらも一緒に展示していますので、どうぞご覧ください。