羽地先生,ありがとうございます。
「ノルウェイの森」
(村上春樹 / 講談社)
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
(村上春樹 / 文藝春秋)
「海辺のカフカ」
(村上春樹 / 新潮社)
それでは,お寄せいただいた書評をご紹介しますね。
毎年10月上旬になると,「今年のノーベル賞は誰に?」との話題がニュースになり,それに続く受賞発表が相次ぐ。昨年は医学生理学賞の大村智と物理学賞の梶田隆章の両教授が受賞し,日本の科学の実力を世界に示した一年であった。10月8日午後8時過ぎ,私は携帯を覗きながら,村上春樹のノーベル文学賞受賞のニュースを待っていたが,期待に反してベラルーシの女性作家スベトラーナ・アレクシエービッチが受賞したとのニュースが飛び込んできた。昨年発表された「今読んでほしい100年目の新潮文庫」で堂々の第1位になったのは,村上春樹の「海辺のカフカ」であった。ベストセラーになったり,ノーベル賞候補になったりしている村上春樹の本を何冊か読んだことがある。昔読んだ2冊の小説を読み返し,最近読んだ1冊の本と付き合わせてみると,なるほどという思いがする。
「ノルウェイの森」は1969年頃の高校2年生から大学2年生にかけての物語であり,新入生の皆さんには時代は違っても身近な問題であり,考えさせられる内容である。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」も高校生から大学生にかけての仲間の物語であり,友情がどのように作られ,いとも簡単に崩れていくか,どこにでも・誰にでも起こるような事象を扱っている。「多崎つくる」のみが苗字に色がついていなくて他の4名と違和感をもつという題名にちなんだ設定も面白い。両著ともに音楽が随所に出てくる。前者はビートルズの「ノルウェイの森」がテーマとして流れている。後者はリストの「巡礼の年」というピアノ曲がモチーフになっている。YouTubeで聴いてみても両曲ともピンとこないが,一度聴いてみる価値はある。
「海辺のカフカ」は15歳の誕生日を迎えた田村カフカ少年と60を過ぎた知的障害があるが,猫と会話ができる超能力をもったナカタ老人が,何かを求めて東京から西へ向かう旅とその行きつく所を中心に物語が展開される。下巻の冒頭に,ナカタ老人と連れの若者が神戸から徳島駅前に高速バスで着いたというくだりがあり,徳島在住の者としては興味がそそられる。また,物語の大半の舞台が四国(高松)であるので,四国に住んでいる者としては親近感を覚える。この本の中にも,絵画や小説の他に色々な音楽が出てくる。200万曲も売れたという「海辺のカフカ」という曲と「海辺のカフカ」という名のついたひとつの絵画が重要な位置を占めている。ギリシャ3大悲劇作家のひとりであるソポクレスのエデェプス王の物語を彷彿させる内容が随所に出てくる。結局カフカ少年とナカタ老人はこの絵画を発見するために西に向かって目的を達成したように思える。
これらの本のなかでは,多くの人が色々な経験をして成長し,いろいろな理由で亡くなっていくが,その事も私達の人生観・死生観を考えるヒントになる。
授業・実習で忙しい生活の中で少しの時間を見つけ,じっくりと村上春樹を読んでもらいたい。もし,今年度のノーベル賞を村上氏が受賞したら,君たちはきっと歴史の生き証人になるはずだ。何年か後,もう一度上記の本を読み返してみたいという機会がきっとくる。その時,徳島大学で学究に燃えていたフレッシュな自分を思い浮かべてほしい。
「ノルウェイの森」は早速,My Recommendationsコーナーに展示しましたが,「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」 は本館にしか所蔵していなかったため,現在発注中です。しばらくお待ちくださいね。
「海辺のカフカ」は,下巻が貸出中となっています。上巻はコーナーにありますので手に取ってご覧ください。
皆さんのご利用,お待ちしています!
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