2015年7月7日火曜日

My Recommendations No.63「iPS細胞 不可能を可能にした細胞」

医学部臨床教授で美波町由岐病院院長,本田壮一先生が下記図書をご推薦下さいました。
本田先生,ありがとうございました。

『iPS細胞 不可能を可能にした細胞』
(黒木登志夫 / 中央公論新社)

書評をお寄せくださいましたので,早速ご紹介します。

私は内科医として地域医療に従事しているが、1988年から91年、東京・築地の国立がんセンター(現・国立がん研究センター)で研究生活を送った(図書館長の吉本勝彦先生は、研究室の先輩になる)。テーマは、がん遺伝子c-myc(ミック)の転写調節であった。後に、分化した細胞を初期化する(reprogramming)4つの遺伝子(山中因子と呼ぶ)の一つに、入っていたのに驚いている。がんセンターでは、同年の村上善則先生(この4月より、東京大学医科学研究所の所長に就任)とご一緒した。村上先生が東京大学の学生時代に、著者の黒木先生(当時は、東大医科研)の研究室で学んだと聞いていた。
 黒木先生は、日本癌学会で活躍され、昭和大学、岐阜大学の要職を歴任された。前著の「がん遺伝子の発見」、「健康・老化・寿命」(両者とも中公新書)は、わかりやすい文章と感じていた。このたび、iPS細胞についての解説を書かれ、サイエンスの面白さについても言及しており、一読を勧める。
 2015年4月、4年に一度の医学会総会が、京都市で開催された(第29回日本医学会総会 2015 関西)。その特別講演は、山中伸弥教授(京都大学)の「iPS細胞(induced pluripotent stem cell)の現状と、医療応用に向けた取り組み」。冒頭、山中先生の父親の写真が紹介され、どのような経歴の持ち主か、改めて興味を持った。山中先生のお父様は、町工場の経営者。山中先生に、勤勉さ、忍耐強さ、創意工夫を教えたという。神戸大学では、柔道部・ラグビー部に所属し、10回以上の骨折を経験したとのこと。現在もサブ4のマラソンランナー。卒後、大阪市立大学の整形外科・薬理学、カリフォルニア大学、奈良先端科学技術大学院大学を経て、42歳で京都大学教授となった。
 黒木先生は、iPS細胞誕生前後の生命科学の歩みや、脳・胃・腎臓・肝臓などの再生、アルツハイマー病・パーキンソン病・筋萎縮性側索硬化症・拡張型心筋症・加齢黄斑変性・脊髄損傷などの難病に対する研究の現状を、研究者のスケッチとともにわかりやすく解説している。巻末の引用文献は、もっと深く知りたい読者によいと思われる。今後も、京都大学のCiRA(サイラ、iPS細胞研究所)や、理化学研究所CDB(発生・再生科学総合研究センター、神戸市)の動向に目が離せない。


本日より蔵本分館1階My Recommendationsコーナーに展示していますので,どうぞ手に取ってご覧ください。
また,書評中で紹介されています『がん遺伝子の発見 : がん解明の同時代史 』と『健康・老化・寿命 : 人といのちの文化誌』,どちらも常三島本館で所蔵しております。
こちらも気になる!という方は図書館カウンターで取寄せをお申し込みくださいね。



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