2015年3月13日金曜日

My Recommendations No.51 「囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論」

口腔分子生理学分野教授,吉村弘先生が下記図書をご推薦くださいました。
吉村先生,ありがとうございました。

「囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論」
(ウィリアム・パウンドストーン / 青土社)

では早速,書評をご紹介します。

この本はゲーム理論の発展に大きく寄与した天才数学者フォン・ノイマンの軌跡を紹介しつつ、ゲーム理論の一例であるところの「囚人のジレンマ」に焦点を当てて、それが人類の意思決定の本質と大きくかかわるであろうことを記述したものである。
ゲーム理論とは、利害の必ずしも一致しない状況における合理的意思決定に関する理論で、数学的解析により行動の最適解を求める応用数学の一分野である。一方、囚人のジレンマとは、ゲーム理論をわかりやすく示す一つの図式で、2人の囚人を例に挙げて、お互いに協調した方が両者にとっては最大の利益が得られるのに、相手が裏切るのではないかという可能性を捨てきれず結局は協調できないという状態に陥ることである。
一見、心理学のようであるが、人がこのような行動をとる理由を数学的に証明したもので、自然科学のみならず、経済学、心理学、政治学などの社会科学にも応用されている。このことを理解するには数学の専門的知識を要するが、本書では数式を使わず、この囚人のジレンマが意味するところを様々な角度から論じている。
冒頭からいきなり川を渡る男と妻と母親に危機が迫り、究極の選択を迫られるという描写から始まる。350ページの分量であるが、小気味好いテンポの展開に引き込まれ、一気に読むことが出来る。
この本が書かれたのは、米ソ冷戦時代で、核兵器開発を通した国家間の利害も囚人のジレンマに陥る。合理的行動が裏切りであるという結論に達するなら、我々に未来はないのかと思わせてしまうが、この本の最後で、「囚人のジレンマに対する唯一の満足いく解決策は、囚人のジレンマを避けることなのだ。」と書かれている。この一文のためにフォン・ノイマンの考えるゲーム理論が存在すると言っても過言ではない。ただ注意しなければならないのは、対立は必ず存在するからこそ協調も存在し、ゲーム理論は最終的に協調が正しいということを証明したものではない。だからゲーム理論という思考を楽しむことが出来るのではないだろうか。

「囚人のジレンマ―フォン・ノイマンとゲームの理論」は本日よりMy Recommendationsコーナーに展示中です。
みなさんのご利用,お待ちしております!

                                                                                                                              sm