本田先生,いつもありがとうございます。
『古典のすすめ』(谷 知子/角川選書)
それでは早速,お寄せいただいた書評をご紹介します。
現代文(国語)や英語に比べ、古文・漢文は読むのに時間がかかり敬遠されることが多い。しかし、地域医療で高齢者とコミュニケーションをはかる場合、新聞や古典の知識(教養)が役立つ。
著者の谷知子教授(フェリス女学院大学、横浜市)は中世和歌がご専門の文学者。徳島県神山町のご出身である 1)。何度か、「病気と文学」についての講演を拝聴していた。この著書では、医学に直接関係する「生・病・老・死」に加え、教育や、勤労、恋・結婚、自然、名前、理想、美、差別、旅、祭り、日本などの章に分け、日本の古典文学(古代から近世まで)の箴言を紹介している。ご造詣の深い百人一首 2)では、“君がため春の野に出でて(光孝天皇)”を好まれ、人生はハレ(非日常なこと)とケがあるが、ハレの部分が毎日ないといけないと説かれている。
教育では、慢心しないこと。稽古事は7歳から。説話や御伽草子(おとぎぞうし)につながる小説(虚構の物語)を読み、生きる力を学ぶこと。また、家訓書(子どもに「得」をしてほしい親心にあふれる)には、コミュニケーション力の重要性が、多く書かれている。
さて、病気の章では、物の怪(け)、伝染病の蔓延(鬼と考えられた)、疫病神(恨みを抱いて死んでいった人が怨霊になる)、それを鎮める祭り(祇園祭りや、蘇民祭)の歴史が解説されている。病気は、人と死を向いあわせ、メメント・モリ(死を想えのラテン語)の契機になる。死と病気の日々を想い、生きていくべきだという。
老いの章では、光源氏や桜の和歌を示している。尚歯(しょうし)会(自分たちの長寿を祝う詩歌会)や、老後の初心も興味深い。白楽天の「慈恩寺に題す」という漢詩を読むと、加齢が怖くなくなったという。
最終章は、「死ぬということ」。死ぬと、魂だけは山の中の黄泉の国へ。吉田兼行は、(1)人生は穴の開いたバケツ、(2)人間は継子立(ままこだて)の石にたとえた。死後は、花を手向けてほしいと。
それぞれ原文に加え、現代語訳が併記されていて理解しやすい。また、内容は日本の古典が中心であるが、漢詩や福沢諭吉、俵万智、村上春樹、岩崎弥太郎、谷川俊太郎、寺山修二、遠藤周作などの著作から引用されており興味深い。
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町立病院・診療所の集まりである「第58回全国国保診療施設地域医療学会」が、2018年10月5日(金曜)・6日(土曜)、アスティーとくしま(徳島市山城町)で開催される 3)。初日の5日(金曜)午前10時50分から11時50分、「古典のすすめ、そして阿波の国」と題し、谷先生にご講演をいただく。医学・医療を学ぶ学生の皆様は、参加費を無料としているので、是非聴講してほしい。
【参考】
1)本田壮一:3人の「阿波女」.徳島県医師会会報.No527,p41・42,2015(平成27)年4月号
2)谷知子:ビギナーズ・クラシックス 日本の古典、百人一首(全)、角川ソフィア文庫、平成22年
3)第58回全国国保診療施設地域医療学会⇒ http://web.apollon.nta.co.jp/kokuho58/index.html
本日より,蔵本分館1階ホール,My Recommendationsコーナーに展示しております。ぜひ手に取ってご覧くださいね!皆さんのご利用,お待ちしております!
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