依岡隆児先生(社会産業理工学研究部社会総合科学域 国際教養系教授)より,My Recommendationsコーナーに下記図書をおすすめいただきました。依岡先生,ありがとうございます。
『ゲンロン戦記』(東浩紀/中公新書ラクレ)
それでは,お寄せいただいた書評をご紹介します。
本書は、哲学者で批評家として知られる筆者が10年前に立ち上げた「ゲンロン」という会社の活動記録です。この時期は従来の言論・出版のあり方を変えようともがく日々だったが、気が付いたらそれは自分との戦いであったと、筆者は振り返ります。
雑誌編集やゲンロンスクール、ダークツーリズムといった試みが失敗に終わったり、会社運営で身内の裏切りにあったりと、自分が犯した数々の「間違い」をさらけ出します。ゲンロンカフェという企画の方は動画配信で人気を博するが、一方でリアルに人が集う場があることの意味を問い直してもいます。合理性からこぼれ落ちる「考え」こそ大切だと考え、登壇者が長く話しながら、思わぬことも話してしまったり、観客同士の間に予期せぬ出会いが生まれたりする、そういう「誤配」のための空間を作ろうとするのです。社会の分断が進み、互いのことに関心を持たなくなっていく時代にあって、同質的組織の限界に突き当たり、「ぼくみたいじゃないやつ」とやっていくことの意味に気づき、とうとうホモソーシャル性と決別します。
ここには、一人の言論人が公論の場を求めて失敗を恐れず一歩を踏み出すさまが等身大で表現されています。熱い語りからさわやかな風が吹いてくる、そんな一冊です。ことばによって社会を変えたいと思っている人におすすめです。
本日(6/15)より,蔵本分館1階ホール,My Recommendationsコーナーに展示しております。ぜひ手に取ってご覧ください。 KH