2019年3月15日金曜日

My Recommendations No.125「”きれいな字”の絶対ルール」

 附属図書館長 吉本勝彦先生(分子薬理学分野教授)より,My Recommendationsコーナーに下記図書をおすすめいただきました。吉本先生,いつもありがとうございます。

『”きれいな字”の絶対ルール』(青山 浩之/日経BP社)

それでは早速,お寄せいただいた書評をご紹介します。

読み手に配慮して書けば、自然と「読みやすく、気持ちが伝わる字」となる。自分の字を整える方法として、「スキマ均等法」でバランス調整、「ピタ(横画の最後はしっかり止める)・カク(折る部分はしっかり折る)・ピト(くっつく部分はしっかりくっつける)法」で丁寧に、「中心線串刺し法」で真っすぐ書くことが挙げられている。「止め、ハネ、払い」への意識や字の外形の把握の必要性は、小学生時の硬筆や習字の練習を思い起こさせる。二人に一人が手書きコンプレックスを持ち、どうにかしたいと思っているそうだ。手書きが不得手な人もそうでない人も、本書から得られるものは大きいに違いない。


 本日より,蔵本分館1階ホール,My Recommendationsコーナーに展示しております。ぜひ手に取ってご覧くださいね!
F

2019年3月8日金曜日

My Recommendations No.124「科学立国の危機: 失速する日本の研究力」

 今回のMy Recommendationsコーナーには,附属図書館長 吉本勝彦先生(分子薬理学分野教授)より,下記図書をおすすめいただきました。吉本先生,いつもありがとうございます。

『科学立国の危機: 失速する日本の研究力』
(豊田 長康/ 東洋経済新報社)

それでは早速,お寄せいただいた書評をご紹介します。

日本の学術論文数が世界諸国に比べて極端に低迷している。本書は、日本の研究力が低下してきた原因を種々のデータに基づいて解析し、研究力が復活するための対応を提案している。多くの先進国において論文数が増えたメカニズムは「政府からの大学研究資金 → 研究人件費 → 研究従事者数 → 論文数」である事がわかった。すなわち「人件費以外の研究費」の増額とともに研究従事者数(研究人件費)を増やすことが特効薬となるのだ。また、ドイツ、米国などの大学間格差(富士山の傾斜)に比して日本の極端に急峻な格差(東京タワーの傾斜;「国立大の1人あたり交付金、12倍の格差」日本経済新聞、2018年11月8日)を改善すべきにも関わらず、さらに「選択と集中」を進める政策が進行中だ。この政策決定の基盤となったデータは、適切な分析に基づくものか監視する必要が強調されている。研究者のみならず将来を担う学生にも一読を勧める。


 本日より蔵本分館1階ホール My Recommendationsコーナーに展示しています。ぜひお手に取ってご覧くださいね!


F

2019年3月5日火曜日

My Recommendations No.123「「全世界史」講義Ⅰ・Ⅱ」

 今回のMy Recommendationsコーナーには,近藤彰先生(近藤内科病院 理事長)より,下記図書をご推薦いただきました。近藤先生,ありがとうございます。
 それでは,いただいた書評と併せてご紹介いたします。

『「全世界史」講義Ⅰ』
『「全世界史」講義Ⅱ』
(出口治明/新潮社)

*
昨年夏、「全世界史」は京都での城南高校同窓会にて上田寛君から購読をすすめられた。一昨年、私は英首相チャーチルがノーベル文学賞を受賞したのを知りすこし驚き、興味がありチャーチルの代表作である「第二次世界大戦」を読んだ。スターリンは、ソビエト軍がワルシャワの数キロ地点に達しながら、ワルシャワ市民の蜂起を見捨てて、ナチスドイツに多数のワルシャワ市民が殺されたことなど第二次世界大戦中・戦後の東欧社会へのソビエトの態度はひどいものであったと話した私に、ロシア刑法が専門の上田君から立場によって歴史観はいろいろと違うと反論されて、薦められたのが本書である。
著者の出口治明さんは、ライフネット生命保険会社会長でかつ立命館アジア太平洋大学の学長であり「教養の達人」と言われている。上田君とは京都大学法学部での同級生で、上田君はあんなに多忙な出口さんが多くの書物を世に出しているのは驚きであると言っていた。

従来の我々が学んだ世界史は欧米からみた歴史観であり、近年、アジアから観た世界史が注目されている。「全世界史」講義は、「歴史とは昔からグローバルな関係の中に存在するものでした。つまり人類の歴史の中に日本史や中国史といったものが孤立して存在しているわけでなく人類にはたったひとつの歴史があって、その大きい枠組みの中に、それぞれの地域の歴史があるのです。」との著者の考えで、欧米からみた歴史とは違って人類の歴史をグローバルに解き明かしている。

本書は面白い教養書であった。15万年前にホモ・サピエンスがアフリカから出て全世界に拡散した。約12000年前に三大文明発祥の地であるメソポタミアにて、ドメスティケーションという現象が起きた。ドメスティケーションとは、人類が狩猟採取生活から農耕牧畜生活に転換した時に生じた。食物を支配し栽培が、動物を管理し牧畜が、金属を支配して冶金が始まり、そして人類の脳が大きく進化した結果、人類は自然を支配したいと考えはじめ、神の概念が出てきたことである。この現象ドメスティケーションが人類にとってその後の大きな飛躍につながったと述べている。
本書は古代・中世をⅠ、近代・近現代史Ⅱの2冊になっている。古代・中世Ⅰでは農耕生産の発達による富の集積と神の出現、気候変動による人口の増減、宗教戦争などを縦糸に、ダイナミックに有史から中世までの歴史を解き明かしている。横糸には、面白い歴史のエピソードが多く挿入されており読み飽きない物語となっている。たとえば、「懺悔」について、6世紀のキリスト教での「懺悔」は信者には救済の一面があるが、キリスト協会が懺悔をとおして莫大な情報を持つことで当時の政治・社会に強大な権力と富を得たこと。同じ一神教であるイスラムの支配はきわめて寛容であるのに対して、キリスト教は十字軍に代表される破壊的で排他的であったことなどである。
近代・近現代Ⅱでは宗教改革、アジアの四大帝国と宗教改革、新大陸の時代その後の産業革命から二つの世界大戦後の冷戦までの歴史である。世界各国の興亡についてⅡ巻は焦点が定まらない感じは否めない。本書の面白いのは先に述べた横糸であるエピソードである。紅茶についてのエピソードも面白い。17世紀の初頭にスペインがメキシコを征服した際、鉱山から大量の銀を掘り出すため、現地メキシコ人にコカの葉をかませて長時間労働を可能にした。この方式を産業革命が始まったイギリスがまねた。当時インドを押さえたイギリスは綿を現地のインドで布に織ることを禁じて、綿を本国に持ち帰りマンチェスターの織機を駆使して大量の綿布を作った。この時、資本家は労働者にセイロンの紅茶を飲ませ、紅茶のカフェインで長時間労働を可能にしたのである。このエピソードを読んで、私もまねて紅茶を愛用している。趣味のゴルフに出かけるときには、象印魔法瓶に「プリンス オブ ウエールズ」の紅茶を入れ持参している。効果はてき面で、暖かい紅茶を飲むことで、1ラウンドハーフの後半に崩れることは少なくなった。

本書を読んで自分の世界観がだいぶん変化した。特に宗教についてキリスト教、イスラム教などの一神教の理解が進み、一神教の強い排他性とは違う、大いなる寛容な仏教が良いのではないかと仏教を再認識している。先日の大坂なおみさんの全豪オープンでの優勝インタビューでは相手を思いやるスピーチであり、なおみさんのスタンスはわが国の和の精神につながっていると感じている。
「全世界史Ⅰ・Ⅱ」を読んだ後、さらに上田君から薦められたベストセラーの「ホモ・サピエンス」、「ホモ・デウス」「GAFA:騎士4人の物語」を購入し読書を楽しんでいる。

*

 本日より蔵本分館1階ホール My Recommendationsコーナーに展示しています。ぜひお手に取ってご覧くださいね!

F